東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2500号 判決
控訴人吉川武男が「東京都港区芝田村町三丁目九番地」という肩書地を附記した「重商株式会社取締役社長吉川武男」名義をもつて控訴人高清と共同して本件各手形を被控訴人宛に振り出したことは、当事者間に争いのないところである。
被控訴人は、本件各手形振出当時前記肩書地には重商株式会社の本店の登記がなかつたから、同会社の存在を善意の第三者たる被控訴人に対抗できず、控訴人吉川は個人として手形上の責任を免れないと主張する。しかしながら、成立に争のない乙第三号証の一、三によれば、本件各手形に振出人の一人として表示してある重商株式会社は、控訴人の主張するようにかつてその肩書地に本店があり、現に東京都杉並区高円寺五丁目八百二十六番地に本店を有する実在の会社であることが認められ、実在する会社が手形振出人となつた場合において、たまたま登記簿上の本店所在地と異る肩書地を記載したからといつて、該肩書地によつて会社の法律上の実在性が左右されその存在が否定されなければならぬ理由はないものというべきである。
もつとも成立に争のない乙第四号証によれば東京都千代田区にも同名の会社があり、控訴人高が従前の代表取締役をしていたことが認められるので、重商株式会社という表示では多少会社の判別に困難を来すことも考えられるけれども、そのために本件手形振出人として会社の存在や控訴人吉川武男の代表権が否定されるものではない。
以上のとおり、本件各手形共同振出中重商株式会社名義のものは、控訴人吉川を代表取締役とする重商株式会社によつて有効になされたものであつて同控訴人個人には手形上の責任はない。
(小沢 中田 賀集)